わたしは貝になれない

人生の偏差値50

次は垢すりもやってもらおうか

本当かどうか知らんが、ムスリムの男は死んだら天国で酒飲み放題肉食い放題、72人のパツキンチャンネーとやりまクリマクリスティーらしい。発想が欲望丸出しで中学生男子かよ、でも素直でよろしい。誰が聞いてもそりゃ最高だろうなってなるし。何事も分かりやすいに越したことないから。

 

長崎で磔になった日本二十六聖人の1人に、ルドビコ茨木という12歳の少年がいるそうで。

彼は刑場に着いた時、役人に自分が磔になる十字架はどれですかと明るく尋ね、「ぱらいそ!ぱらいそ!(天国)」と叫びながら槍を受けたとか。

つい先日スコセッシ監督の「沈黙」を視聴したが、踏み絵くらい別にいいじゃんよ〜命大事に!とどうしても思ってしまう。しかし頑として棄教せず、ルドビコくんなんかはむしろ殉教を喜んで受け入れていたのだから、彼らの信じる「ぱらいそ」はよっぽど良いところなんだろう。というか生半可な天国じゃ磔や肥溜めの上の逆さ吊りを耐えるに値しない。それゃもう想像もつかん程の天国じゃなければ。いざ行ってみてショボかったら流石のルドビコくんも怒っちゃうよね。

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映画「フォレスト・ガンプ」で、両足を失ったダン中尉が

「牧師は俺に『イエスを心に受け入れれば、天国で共に歩くことができるだろう』と言いやがった!」

とめちゃ怒っていたものの、終盤は「神様と仲直りした」(フォレスト談)つってすっかり毒気抜けちゃってたから、ぱらいそはただ歩くだけでもそりゃあ最高の場所なんだろうよ。

ディズニーランドのイクスピアリ?つーの?あのゲート入る前の商業施設。偏見ゴリゴリで言うけど、あそこなんか20代のOLとかはただ歩くだけで最高!って思ってるんじゃないかな。王様のブランチ見る限り。

関係ないがフォレストとジェニーの結婚式に、ダン中尉が「婚約者のスーザンだ」つって結構なブス連れて来たのだが、あれは「こんなに毒気が抜けましたよ〜」ってことの強調だと思う。そういう演出は逆にブスに失礼だぞと言いたい。

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昔、一度だけ髪切ってもらった美容師が、茶髪長髪真ん中分け、顔の彫りが深くてガリガリに痩せてて「俺キリストに似てるって言われるんスよ」って確かにめちゃ似てて笑った。

そのキリストの兄ちゃんが「多摩動物園に天国みたいな場所があるんスよ」と言うので行ってみると、緑がいっぱいの中を色とりどりの蝶々が舞い飛ぶ「昆虫生体園」っていう温室があった。ここは一年を通して2000羽以上の蝶々が見られるらしい。老若男女皆笑顔、キャッキャウフフと蝶を愛でる素敵空間でございました。

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なかなか良いとこじゃんアイツさすがキリストに似てるだけあんなと感心したが、温室一歩出た廊下に大小様々なゴ○ブリ(口にも出したくない)が展示されていたので、油断していた自分は思わず仰け反った。天国と地獄とは薄膜一枚だけで隔てられている……いかにも聖書に載ってそうなオリジナル福音が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

色々な天国がある。

かつて宮城県名取市にあった「東北健康スタジアムテルブ」というスーパー銭湯というか昔は健康ランドと言ったが、家から車で1時間弱のこの健康ランドに、幼い頃よく親に連れられて行った。

派手なアロハが館内着で、風呂ありサウナありマッサージあり和洋中の食事処ありゲームセンターあり。リクライニングチェアがずらっと並んだ休憩所、寝ながら映画を観れる小さな映画館、あとは子供が自由に遊べるキッズスペースなんかもあった。プールも併設されていた。ウォータースライダーとドーナツ型の流れるプールと波打際を再現したでかいプール。

つまりここが自分の天国だった。

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流れるプールで溺れかけ、綺麗なお姉さんに助けてもらった。海老ドリアを頼みたかったが海老の読み方が分からなくてかいろうって言っちゃって恥かいた。休憩所ではしゃぎ過ぎて他の宿泊客からうるせぇぞ!と怒鳴られた。苔色の薬湯に入ると股間がピリピリして耐えられずすぐ上がったが、老人は平気そうな顔で長々入ってる(すげぇ!)。館内のそこかしこにでかい木彫りの恵比寿像やら北極熊の剥製やらが飾ってあったので、深夜にトイレ行くとき怖くて早歩きした(でもこんな真夜中に人が全然いない館内を歩くのってワクワクするぜ!)。ゲーセンのワニワニパニックの設定が激甘で、ハンマーじゃなく両手使って叩きまくり、満点連発してやった。

行きたい行きたいとマジに地団駄踏んで駄々こねた思い出。もうノスタルジー全開。

経営者が詐欺で逮捕されちゃったりして、残念ながら2005年に閉館してしまったらしい。

しかし天国はここだけではないのを知っている。大人になった今、地団駄踏まずとも自分で行ける。ペーパードライバーだから車には乗れないが、電車乗って行ける。

 

 

中野に住んでいた頃、仕事休みの平日に荻窪駅すぐのスーパー銭湯によく行った。

プールこそなくて都会だから規模もテルブよりは小さいが、ここもまた別の天国である。プールなんて大人はいらんしプールよりビールがあれば良い(だじゃれです)。

ひとっ風呂浴びたら岩盤浴で汗流し、もう一度風呂。食事処でビールと気の利いたつまみを一つ二つ頼み、テレビで流れてるミヤネ屋を横目で見ながらチビチビ食べる。その後、地下の休憩所の漫画コーナーで、もう何度も読み返してる稲中を手に取る。浜先生の話を聞いた前野たちが最後の審判に備え、赤ちゃんの格好で過ごし部室でうんこ漏らすお気に入りの話をまた読み返しながら、マッサージの時間を待つの(今日は贅沢に60分コースを予約してやったぜ!)。この時間が幸せのピーク。出来ることならこのままゆっくりと死んでいきたい。そしてあの世でまたスーパー銭湯に行きたい。

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浜先生じゃないよピーウィー・ハーマンだよ

 

 

天国がスーパー銭湯だったらルドビコくんはがっかりするだろうか。

まぁまぁそう落ち込むなって、一緒に岩盤浴入った後にビールでも飲もう。ビールが飲めなかったらカシスオレンジでも柚子サワーでも、勿論ノンアルコールでもいいよ12歳だし、なんでも好きなの飲みなさい。さあミヤネ屋見ながらモツ煮を食べよう。

ルドビコくんあいつは宮根っていう島根が生んだ最も下劣な人間さなのに関西人の振りをして大衆を欺いてるんだよその上不倫やら隠し子やら自分は真っ黒なくせに他人の醜聞をあげつらって汚い銭を稼いでるでも安心して奴は高慢貪欲色欲の大罪を犯してるからこのぱらいそには絶対に来れないんだよ……

 

 

そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所

そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所

 

 

水兵Liebe my boat

もう結構いい歳にも関わらず、未だによく分からないことが沢山ある。

量子力学とかそういう小難しいことについてではなく、日常的な物事について。

 

 

30過ぎても十二支が言えない奴を、マジかよ無知すぎるだろと馬鹿にしたことがあったが、そういう自分は31日まである月が分からない。所謂小の月、大の月の区別がつかない。

 

「にしむくさむらいだよ〜」

と言いながらグーにした手を反対側の手でちょんちょんと触ってた高木さん(早見優似で可愛い)。その時に詳しく聞けば良かったが、そうだよね知ってる知ってると言わんばかりの澄まし顔でスルーしてしまった小5の頃。尊大な羞恥心と臆病な自尊心(©️山月記)、こいつらがいつも自分から学習の機会を奪う。

高木さんは小6の春に都会へ転校してしまった。後に届いた手紙には「クラスで一番格好良い人と付き合うことになったよ☆」とあり、彼氏って……小6で⁉︎早過ぎない⁉︎という衝撃がカッペ達に走り、自分は都会で出来た格好良い彼氏に「西向く侍」を教えている高木さんの姿を思い浮かべた。

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にしむくさむらいだよ〜

 

 

鶴も折れません。King of 折紙の鶴です。

皆さん、易々と折ってらっしゃいますが、あれって工程多いし結構複雑な作業ですよね。しかも、少しの曖昧さも許されないときてる。きっちり角合わせとかないと、後から皺寄せが来て最終的に太った不恰好な鶴が出来上がったりしちゃう。

三つ子の魂百までと言うが、「(細かいとこは置いといて、と)アウトラインだけ抑えときゃなんとかなるっしょ」のスタンスは、自分が幼稚園の頃には既に確立されていたように思う。いつも途中で諦めた。労力の割に出来上がりが地味だから鶴って。だったら完成してからも面白いカメラとか手裏剣を作りたい。

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専門学校時代の精神科実習で、所構わず放尿してしまうため拘束服を着せられているお婆さんと一緒に鶴を折るというレクリエーションをする機会があったが、まず病棟の看護師さんから折り方を優しく教わり、その後でようやく自分がお婆さんに優しく教えるという伝言ゲームみたいな事態になってしまった。パプアニューギニアがパパは牛乳好きだになっちゃうのと一緒で、最終解答者のお婆さんが綺麗な鶴なんて折れるはずもなかった。

このような情けない経験を経ても尚、私の頭の中の消しゴムは毎度毎度鶴の折り方を消してしまう。

 

YouTubeで石のカンノのCM(ご存知福島県ご当地CM)でも見るかと検索していると、間違って日本サイコー好き好き大好き超愛してる!みたいなクッソ恥ずかしい動画をタップしてしまう時があり、静止画にテキストが流れるだけのクッソしょうもねぇのを数秒見る羽目になる。数秒だから詳しいことは分からんが、折鶴を外人にあげたら凄く感激されて、これを簡単に作れる俺ら日本人ってやっべ〜、誇らしい〜!みたいなエピソードがあるようだ。

誇らしく思うのは結構だが、日本人だからといって全員が全員器用なわけではないということを念頭において欲しい。あとクソみたいな動画をアップするのは止めろ。 


【CM】石のカンノ

 

 

 

大学受験を控えた夏、世界史の教師が

「お前らに今から中国の王朝を歌で覚えてもらう!これ覚えたら一生絶対忘れないし、トイレでうんこしてる時も無意識に口ずさんじゃうからな!」

じゃあ行くぞ、と言い、アルプス一万尺のメロディにのせて♩殷周東周春秋戦国秦前漢新後〜漢魏蜀呉……と歌い出した。

これが本当マジで、高校卒業して大分経つ今でも忘れられないし、散歩の時風呂入ってる時つまんねーテレビ見てる時勿論うんこしてる時もなんとなく歌っちゃう。

 

特技は中国の王朝全部言えることです!とほぼ初対面の人に得意げに披露したことも何度かある。

へーすごいね、と皆一様にお世辞を言ってはくれるが、いきなり長々とインシュトウシュシュンジュセンゴク!とわけの分からん呪文みたいなアルプス一万尺聞かされてたまったもんじゃなかったと思う。

まだ続くの?早く終われやという気持ちが相手の顔にありありと表れていても、揚々と始めた手前途中で止めることも出来ないし、というかこっちも早く終わらせたいしという焦りも相まって、後半の五胡十六国北魏東魏の辺りなんかスキャットマン・ジョンになってしまうのだが、とにかく、もうコレ一生覚えてる自信ある。

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幼少期に自転車に乗らないでいると、大人になってから習得するのに多大な努力を要するらしい。外国語は教わる年齢が低ければ低いほど上達が早いとか。

要するに、学ぶべきものは学ぶべき時に学ばないと後々苦労するぞということである。

昔はパサパサだったスポンジも今では日本酒の銘柄やゾンビ映画のタイトルといった泥水を吸い込んでじっとり湿っており、綺麗な水分を吸い込むための余地は僅かである。

西向く侍の解釈だって、何度か調べてみてその度になるほどねと理解はするのだが、またすぐに忘れてしまう。完全に機を逸した。脳に西向く侍が入り込む余地がなくなってしまった。

しかしながら、西向く侍や干支や春の七草秋の七草歴代首相にひとよひとよにひとみごろ、どれも常識だが日常生活にそこまで影響を与えない事柄なので、そんなもんは都度インターネット様に聞きゃいいのである。無理に覚える必要ないし〜、となる。別にそれが良いとか悪いとかじゃなく、だから自分は今後も大の月小の月鶴の折り方を覚えられないまま一生を終えるだろうということを言いたいのです。

 

責めないで欲しい。

ベリアル様

自分の母親は読書家で、図書館で限度枠いっぱいに借りてきてはすぐに読んでしまう。読むのがめちゃ速いが故に、金が勿体無いからと本好きにも関わらず自分用には滅多に購入しない。が、子供の教育に関しては金を惜しまない面もあり、本であればどんな内容のものでも大抵買ってもらえた。

普通は渋られると思うが、漫画もその例に漏れなかった。母親は漫画は「ベルばら」くらいしか読まなかったらしいので、もしかしたら全ての漫画がベルばらみたいな感じだと思っていたのかもしれない。

デビルマン漂流教室めぞん一刻風の谷のナウシカブッダ王家の紋章、BASARA、幽☆遊☆白書伝染るんです行け!稲中卓球部  などなど  

少し成長してからは鉄コン筋クリート、リバーズエッジ、茄子、アゴなしゲンと俺物語  などなど  

とてもここでは書ききれないが、自室の床が漫画の重みでたわむ程だった。それら全て親の金で購入したし、漫画ばかり読んでいても注意されるでもなく自由にさせてもらったのは本当にありがたい。

  

 

「漫画で読む歴史」みたいな、何巻もある教育漫画も学研かなんかで注文購入していた。うちにあったやつは、宇宙人の男女が「あれがアリストテレスね、10年後に行ってみましょう」とか言って俯瞰で歴史を眺めるみたいな、昔テレビでやってた「まんがはじめて物語」と似たような内容だった。割と面白かった記憶はあるが、内容は殆ど忘れた。

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唯一覚えてるとこは、古代エジプトでミイラ作ったり解剖したりするシーン(おっぱい出てたから)。

あとは、今昔物語を漫画化したやつの中で、イケメン貴族が片思い相手のうんこ盗んだらめっちゃいい匂いして、ちょっと食べてみたらうまい!(芋で作った偽うんこだった)裏かかれた惚れ直したでおじゃる、みたいな話が印象深い。

内容もさることながら、なんか絵柄もババアが読むようなレディコミ風だったからか、ねっとりした変態ぽさが前面に出てた。例えば少年アシベとかコボちゃんみたいなほのぼのした絵柄だったら、また感じ方も違っただろう。

 

 

 

従兄弟の姉ちゃんが、当時まだ連載中の少女漫画「ぼくの地球を守って」にどハマりし、まだ小学生だった自分に登場人物の相関図を暗記させた(なんで?)。この漫画は前世の記憶をもつ高校生達の話で、スピリチュアルブームも相まって大ヒットしたらしい。

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「シオンが小林輪、モクレンが坂口亜梨子、ギョクランが小椋迅八、エンジュが……」

漫画の内容は一切知らないまま、登場人物たちの前世と現世の名前を暗唱してみせると、従姉妹の姉ちゃんがめちゃ喜んでくれたので、自分も嬉しかった。

 

ちゃんと全巻読んだのは自分がもう少し大きくなってからで、既に連載も終わって文庫本も出版された頃だった。本当によく出来たストーリーで、息もつかせぬ展開の中に笑える場面もありつつ、最後は大団円で終わる。感動した。

しかし、ある巻に「この物語は完全にフィクションです。誤解させてすみません」的な作者コメントが載っていたのが気になった。そんなん当たり前だろ、誰が本気にすんの?って思ってたら、洒落にならんくらいの人が本気にしてて、一大前世ブームが起こったらしい。中には登場人物を自分だと思い込み、オカルト雑誌に「前世の仲間を探しています。当方モクレンです」等と投稿する人も少なからずいて、作者があのようなコメントを出す事態になったと(wikiより)。

まぁどっぷりのめり込んじゃうくらい面白い漫画だったと。

 

 

時を経て。

大学のレポート作成をしているときに、稲中卓球部で井沢の前世が関ヶ原にいたバッタですって話面白かったなとふと思い出し、気紛れに「前世」と検索バーに入力してみた。

すると、「前世の仲間を探す掲示板」というのが引っかかった。ちょっと覗いてみると、天使の記憶・悪魔の記憶・動物の記憶・妖精の記憶、みたいに細かく掲示板が分かれていた。時間をかけて一つずつ見ていくと、悪魔の記憶と竜の記憶が盛り上がっていた。

 

特に自分が気に入ったのは、悪魔の掲示板にいたAさん。

彼女の夫は悪魔ベリアルで、魔界の王。前世っていうか、こちらの世界と魔界を行き来していて、寝ると魔界に行けるらしい。魔界でのAさんは髪が青くなって腰まで伸び、いつも黒いドレスを着ているんだって。Aさん、「前世で、私の恋人は魔王でした云々」みたいな他の人の書き込みに「それは偽りの記憶だと思います。魔界の王は私の夫ベリアル様だけだから」と断言してて強かった。

あと、竜の記憶を持つ人達も良かった。

竜の掲示板には、前世で竜族のお姫様だったBさん(美少女らしい)と、それをとりまく側近みたいな人達が常駐していた。Bさんは前世で非業の死を遂げたらしく「今日は風がとても優しい……。悲しい記憶も蘇ってくるけど、私はみんなが思ってる程可哀想な女の子じゃないよ?」みたいな、思わせ振りな書き込みに身悶えした。竜族は風と友達で、天気も軽く操れるらしい。詳しくストーリー教えて欲しかったが、自分には竜の記憶はなかったので仲間に入れない。「ナージュ(Bさんの前世ネーム)可愛かった〜、前世のイメージぴったりでした!」とか取り巻きに言われてたので、定期的にオフ会開いてるのが分かった。

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生前の愛用品を子供に選ばせて次期ダライ・ラマを決めるみたいなそんな次元の話じゃなくて、もうファンタジー全開だった。

100%笑いの方向で見ていたが、掲示板に「妄想だろ」とか「漫画読みすぎ」とか書き込む気は全くなかった。そういう行為は管理人からきつく禁止されていたし、そもそも妄想でも嘘でも誰にも迷惑かけてないし、本人たちが楽しんでやってんだから大いに結構。水を差すなんてとんでもない。

学校帰りに珍しい虫の巣を見つけた感覚で、それからちょくちょく掲示板を覗いていたのだが、就活やら専門学校の入試やらでバタバタするうち存在を忘れてしまい、あ、そういやあの虫の巣どうなったかな、と思い出したときには、既になくなっていた。

どうやら某巨大掲示板で話題になり、痛いやつら見〜つけたとばかりに煽られ、閉鎖に追い込まれてしまったらしい。ひどすぎる。自分だけが知っていた特別な虫の巣が、クラスの悪ガキどもに見つかり、なんだこの虫気持ち悪っ!と弄ばれた上に無残にも蹴散らされてしまったのだった。

 

 

あの掲示板の利用者たち、今頃は結構な年になってると思うが、一体どうしてるだろうか。

電車で隣に座った人がベリアル様の妻だったりするかもしれない。

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何のために生まれたのか

うまいもん食べるために生まれてきた。稀代の食いしん坊である。

パネルクイズアタック25を毎週視聴しているのだが、飲食についての問題は誰よりも早く答えられる。人一倍、食への関心が強い自負がある。しかし、グルメではない。何食っても大抵うまいと思うが故に、生まれてこのかたずっと太っている。

 

 

幼稚園の頃。

法事か何かの折、親戚一同と共に洋食屋に入った。地元でレストランと言うとファミレスのココスくらいしかなかったので、ちゃんとしたレストランは多分生まれて初めてだったんじゃないかと思う。

「オムライスにしたら?美味しいよ」

と勧められるがまま初めて食べたオムライスに、腰抜かすほどの衝撃を覚えた。当時は食に保守的な祖父母と同居していたからか、子供向けのメニューが食卓にあがることは滅多になかった。そこへ来ていきなりど真ん中の味覚を与えられたので、国境超えて保護された脱北者が南で生まれて初めて銀シャリ食った時みたいに(想像)、脇目も振らず貪った。

何これ⁉︎こんな美味しいものがこの世にあったのか⁉︎

自分がずっと追い求めていた、究極の味がここにある……みたいな、美味しんぼだったらこの日が最終話だった。

そして、この日を境にオムライスが好きな食べ物No. 1になり、夕飯何がいいかと問われた時は常にオムライスと答えたし、遠足の時にも毎回リクエストして、おかずゼロで弁当箱の限界までパンパンに詰められて蓋の裏側がケチャップでべちょべちょになってても満足だった。

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あんなに好きだったのに、今では年に1回食べるかな、ってぐらい食べなくなった。とは言っても嫌いになったわけでは決してなく、単にランキングが下がっただけ。オムライスはやはり子供味。とても美味しいが、大人になってしまった自分の舌には優し過ぎて物足りないのだ。

子供の頃に「コンピューターおばあちゃん」が一番好きだったからって、大人になっても通勤中に聴いてる奴いないと思う。まさか「自分が死んだ時に……」つって、葬式に流す曲としてリクエストもしないだろうし。だからごめんね。オムライスに罪はないが、人は変わっていくものだから。

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大人になって飲酒するようになると、癖の強いものほどうまいと感じるようになった。

生牡蠣レバ刺し蟹味噌ブルーチーズetc  これで飯を食えと言われたらいやちょっと……ってなるが、どれも酒には滅法合う。20歳くらいを境に頭の回転も運動機能も衰えていく一方らしく、実際身をもって感じてもいるのだが、これらをつまみに酒を飲むたびに、大人になってよかったなとしみじみ思う。

が、終電で静かに鞄の中にゲロを吐いたり(臭いですぐバレた)、ゼミ合宿で風呂に入った直後から朝まですっぱり記憶がなくなり、正気をなくして大虎になった自分の姿をビデオカメラで撮影されていたり(やめて!)、酒での失敗は数ある。

朝方吐き気我慢しながらシャワー浴びて、ああああもうイヤ!昨日の自分死ね死ね死ね死ね!もう絶対に飲まない!と決意することも一度や二度ではないが、今後も良い距離感を保ちつつ末永く酒とは付き合っていきたいと思っている。

 

自分は酒で失敗したときはいつもオマル・ハイヤーム著「ルバイヤート」を読むことにしている。

ルバイヤートを思いっきりざっくり説明すると、どうせみんな死ぬし死んだ後のことなんか誰にも分かんないんだから、しきたりや戒律に縛られず、酒飲んでパーティでもして、今を楽しもうぜ!みたいな詩が大半を占めている。

 

酒を飲め   それこそ永遠の生命だ   また青春の唯一のしるしだ  

花と酒   君も浮かれる春の季節に   楽しめ一瞬を   それこそ真の人生だ!

 

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以前まったく下戸の人にルバイヤートを貸したら「うーん、ちょっと分からなかった(>_<)」と言われてしまい、貸すんじゃなかったと後悔した。しかし自分のような人間にとっては正に免罪符というか、読んでると昨夜の醜態が遠くなっていき、罪悪感も薄れ、ま・いっか!今日も元気だ酒がうまい!みたいに開き直れる。

いま改めて言語化すると最低だなと思った。肝臓は大事にしていきたい。

 

 

 

地元には「ままどおる」という銘菓がある。

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自分は太ってるくせに甘いものは昔からちょっと苦手で、幼少の頃は特に生クリーム系の洋菓子の類は全然食べられなかった。誕生日の時などはささみフライを大量に作ってもらい、ケーキの代わりにしていたくらいだった。

小学生の頃、親から無理くり通わされていた書道教室でクリスマス会をやる機会があり、ケーキをホールではなくカットで購入するので一人づつ好きなものを教えてくれと講師に言われた。皆が嬉しそうに「チーズケーキ」やら「モンブラン」やら声をあげる中、あんまりケーキ好きじゃないからいらないです……と言うと、「嘘つけ!」とノータイムで皆から非難された。

いやいや嘘ついてどうすんの損じゃんか逆に何の意味があんの自分は誕生日の時だってささみフライを(以下略)と必死に訴えるが、ハンプティダンプティのような体型ではいかんせん説得力がなかった。多分講師も訴えを信用していなかったので、結局勝手にチョコレートケーキを注文されてしまった。

クリスマス会当日、ケーキを一口しか食べられず残していると「本当だったんだ……」という視線をみんなから感じたが、誰も謝ってくれなかった。だったら紛らわしい体型してんなよと思ったに違いない。逆の立場だったら自分だってそう思う。

 

話が逸れたが、そんな自分でも大好きな甘いお菓子、それが冒頭のままどおるである。

皮がふわっとしてて、中身はバターとミルク風味のしっとりした白餡。良い感じに和洋折衷な味わい。サイズ感も丁度で、茶受けにぴったり。しょっちゅう実家にあったし、昔からCMやってるしで、自分にとっては非常に馴染み深い菓子である。

上京してからも何度か母親にリクエストして送ってもらった。しかし、ままどおるはあまり日持ちしない。箱で貰うと賞味期限内に食べきれないので、職場に持っていくと

「あ、ままどおるだ。福島の人って、これ好きだよね〜」

と言われた。

え、好きだよねって、嫌いな人いんの?

今ならいや別にいるだろと思うが、そう言われるまで嫌いな人がいるなんて想像したことがなかったので、軽くショックだった。地元では、と言うか自分の周りでは嫌いな人は1人もいなかったと記憶している。確かに、福島の人ってこれが好きである。

 

だから、九州出身の人から帰省のお土産としていただいた「博多通りもん」を食べた時は、度肝抜かれた。似ている……しかし、よりクリーミーで口当たりよく、コクがありつつも軽い味わい。あくまで個人の感想だが、負けたと思った。

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また美味しんぼで例えると、鮎のてんぷら対決の時の京極万太郎の心境だった。

ままどおる食べた後が 

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だとすると、

博多通りもん食べた後が 

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こう。(カスって……)

 

 

しかし、ままどおる博多通りもんよりも優れていることがある。

それは入手のし易さ。博多通りもんは福岡近郊にしか売っておらず、アンテナショップ等にも置いていないのだ。

いくら美味しくても食べられないんじゃ仕方ねぇ、やっぱお前が一番だよ。結構どこでも売ってるもんな。美人と浮気してみて古女房の良さを再確認したみたいになるが、自分はこれからもままどおるの味方であり続けようと思っている。終

ゾンビ、夢、自由研究

幼い頃からゾンビが大好きだ。

特にジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」が滅茶苦茶好きである。

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小学生の頃、レンタルビデオ屋で自分があまりにも毎回ゾンビ借りようとするので、母親から「お願いだから他のを借りて」と懇願されるくらい心酔していた(ちなみに「クリープショー2」も好きで頻回に借りていたのだが、この作品もロメロが関わっていたと成人してから知り、不思議な縁(?)を感じた)。

幼少期はストーリーをよく理解していなかったし、登場人物たちの関係性もなんとなくしか把握出来なかったが、成長とともに曖昧だった点が補完されていき、自然と全体像を掴んでいくことが出来た。観る度に新しい発見があった。

太って暗くて毎回ゾンビ借りる小学生なんて、将来「絶歌」出版しそうな不穏さ漂うが、自分は決して猟奇趣味なわけではない。むしろ苦手である。じゃなんでそんなゾンビが好きかって言うと(誰にも聞かれてないが)、バリケード築いてからの「箱庭感」というか、「ひょっこりひょうたん島感」が堪らんのである。

 

ゾンビものの定石だが、何らかの理由で地域あるいは全世界的にゾンビが溢れ、命からがら助かった人間たちが協力してバリケードを築く。学校とか軍の施設とか、立て籠もる施設は色々だが、ここはやはりショッピングモールが良い。武器も食料も何でも手に入るし、セキュリティーもそこそこ。

犠牲を出しつつも何とか店内のゾンビを倒し、ドアをロックし窓を補強して、つかの間ほのぼのした生活を送るのだ。高い酒飲んだりファッションショーしたり、ちょっといい感じになった相手とセックスしてみたり(リメイク版)、外に大勢たむろするゾンビを的に射撃してみたり。

結局最後はゾンビが雪崩れ込んできてどうにもなくなるが、そこに至るまでのひょうたん島的なほのぼの感が堪らん。薄氷の上に築いた平和と言うか、長続きする筈ないとみんな確信してるけどどうしようもない、仮初めの幸せと言うか……。この時間がいつまでも続けば良いのに!てみんなが切実に思ってるって、なかなかないんじゃないですか。そんな幸せで平和な生活が呆気なく崩れる悲劇の瞬間に、大きなカタルシスを感じる。動く死人に生きたまま食い殺されるって、ほのぼの生活との対比がエグ過ぎる。

 

当時は3部作だということも知らずに、偶然一作目の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」も観ていたが、二作目の「ゾンビ」に比べると地味に感じた。立て籠もるのも普通の民家だから安心感なくて焦りっぱなしだし、ストーリーがあまりに暗すぎる。あと、白黒というのもあって子どもにはまだ早かった。三作目の「死霊のえじき」はそもそもレンタルビデオ屋に置いてなかったと思う。

大人になってから上記の3部作に加えて「ランド・オブ・ザ・デッド」、「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」、「サバイバル・オブ・ザ・デッド」もシリーズはリメイク版も含めて全て観たが、やはり自分のベストはオリジナルの「ゾンビ」だなと思う。

バタリアンショーン・オブ・ザ・デッド、28日後、ゾンビランドロンドンゾンビ紀行、ゾンビ自衛隊、ゾンビワールドへようこそ、REC、などなど   いまブームだし、面白いなこれと思うゾンビ映画は数あれど、自分の原点はロメロのゾンビにある。未だに1年に3回は観てしまう。

「ランド〜」のメイキング映像を観て、ロメロ煙草吸い過ぎだろ大丈夫かよと思ってたら去年肺癌で死んじゃって、自分の長い青春が終わった感があった。淋しい。

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話変わって

自分は大人になってからも夢をよく見るのだが、大抵が悪夢で、ゾンビはNo. 1の常連である。次が汚いトイレとゴ○ブリ(口にも出したくない)で、場合によっちゃ御三家勢揃いの悪夢もある。

大学生の頃、あまりに暇すぎて「人はどんな内容の夢をみるか」という自由研究をしてみようと思い立ち、大学の友人は勿論、高校時代のクラスメイトにも電話をかけ、さらに大学構内でも全然知らん人に声かけてアンケートをとったりした。こんなことばっかりしてたから就職出来なかったのだろうと今は思うが、当時はどうかしていた。実際、大学構内でアンケートを取ったときは、

「(夢は)全然見ませんね……あの、ちょっと次の講義があるんで」

みたいに、完全にどうかしてる人に対する態度で目も合わさず、殆ど答えてもらえなかった。

しかし、友人たちからは色々いい話を聞かせてもらうことが出来た。

子供の頃は夢をよく見てたけど、大人になってからは少なくなったなって人が大半だったが、自分のようによく見るし大抵悪夢って人も何人かいた。

 

「実家に続く道の両端に鯨幕が張ってあって、実家では誰かの葬式をしていた」

「台所の真ん中に汚い沼があって、何故か自分はそれを風呂だと認識していて、いやいや入る夢」

「二階の自分の部屋まで、一階からゆっくり雪女が階段を昇ってくる(姿を見ていなくても何故か雪女だと知っている)」

「高校の校舎が全焼し、クラスメイトが全員焼死したはずだが遺体が見つからない。自宅に帰って押入れの襖を開けると、見つからなかった焼死体がギチギチに詰め込まれてて、自分に覆いかぶさってきた」(怖すぎる)

etc

 

人間の想像力には恐れ入る。うっすら不気味なものから、文句なしに恐ろしいものまで様々である。

夢の話って話題としては嫌がられることが多いが、自分は好きなのでどんどん聞かせてほしいと思っている。

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余談ではあるが、大人になってから自主的に行う自由研究は非常に面白い。嫌々だったから題材が全然思いつかず、最終的に母親監修のもと「コーヒーゼリーの作り方」という流石デブといった感想しか持てない自由研究(研究ってなんだ)を2年連続で提出していた小学生の頃とは大違いである。

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上記の夢の研究は(友達少ないので)サンプルが集まらず頓挫したが、他には「コンビニで売ってる男性向けエロ漫画雑誌(快楽天とかペンギンクラブ)の研究」と称して、ズプッとかヌチュッとかの擬音語を正の字で一生懸命数えてみたり、体位や淫語の種類を調べてみたり、字だけじゃ寂しいから絵も入れよ〜っと★てなノリで、敢えて絵が下手くそな奴にエロ漫画の一コマをフルカラーで模写させたりした(研究ってなんだ)。

「なんで股間の汁気を水色で表現するんだよ!」とか煽りながら、作ってる方は腹抱えるぐらい面白かったが、手伝わされた人は勿論、出来上がったレポートと言う名のゴミを「誕生日が近いからプレゼントです」と一方的に送りつけられた友人は、一体どんな気持ちだっただろう。

こうして自分の周りから人が消えていく。

仙人ツアー

両膝に爆弾を抱えている。いや、爆弾と言うと少し物騒すぎるので、ここは不発弾と呼びたい。

先天的に両膝の半月板が一部欠けているため、簡単に脱臼してしまうのだ。 

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初めて脱臼したのは小学5年で体育の授業中、バスケをしているときだった。遠くからパスを受け、後方にバランスを崩した。両足が「バキバキっ」と音を立てて、冗談抜きで複雑骨折したかと思った。

整形外科で膝関節に溜まった血を抜いて、完治まで大体1ヶ月くらいだったか。

同様の怪我を繰り返すうち、膝関節がガックガクになっていき、今では少し膝を指で外側に押すだけで脱臼するし、すぐに元に戻るわけの分からん身体になった。もし自分の足がドアだったら、鍵(膝)が馬鹿になっててたまに勝手にドア開いちゃうから、大家に言って鍵交換してもらわなきゃな、となる。そして今の自分の状態は、まぁ泥棒なんて滅多に入らないだろうから、ちょっと気をつけて生活してりゃいいか、と諦めてる状態である。

 

全速力で走ったり、ジャンプしたりすると必ず膝がずれるし、普通に歩いているだけでも転びやすい。が、そんな身体の不具合にももう慣れた。不便さのランクで言ったら花粉症くらいなもので、大変っちゃ大変だが別に悲観するほどでもない。

「スポーツやってる人はハンデになるから手術したりするんだけどね。でも結構な手術になるし、リハビリも時間がかかるよ。君の場合、取り敢えず体重を落として膝に負担をかけないように。あと足の筋肉を鍛えてね。水泳とかおすすめ」

何度目かの脱臼の時、整形外科医に言われた言葉である。

自分は小学生当時、滅茶苦茶太っていた。毎日家から5分の駄菓子屋に通い、両手に抱えるほど菓子を買い込んで貪り食っていたからだ。加えて運動嫌いに野菜嫌い。痩せる要素など微塵もなかった。

ちなみに、医者から言われる前から既にスイミングスクールに通わされていたが、スクールに設置してあった17アイスを帰りに絶対食ってたので全然意味なかった。

 

 

 

数ある脱臼エピソードの中でも、一番思い出深いのは2回目の脱臼である。

やはり小学5年生の頃。兄が

「きつね神社で仙人を見た」

と言う。

きつね神社は町の外れの小高い山の上にある神社で、正式名称は手長神社と言う。地元には手長足長の伝説があるが、それと関係してるかどうかは分からない。補足すると、手長足長は足がめちゃ長い妖怪が手のめちゃ長い妖怪を肩車してる戸愚呂兄弟みたいなやつらで、悪さして村人たちを苦しめていたのを、徳の高いお坊さんが山に封印したとか何とか。

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なんで手長神社が地元のクソガキ達からきつね神社と呼ばれてるかと言うと、麓から頂上の社殿まで京都の伏見稲荷みたいに鳥居がずらっと続いているのだが、その脇に大小様々なきつねの像(お稲荷様)が無数に置いてあるからだ。

このきつね神社、陽当たり最悪で昼間でも薄暗く、はっきり言って滅茶苦茶気味悪い。伏見稲荷を例に出したが、あんな風に綺麗に整備されておらず、今は知らんが当時は朽ち果てる寸前といった体。

その神社の裏手に洞窟というか防空壕みたいな横穴があって、兄とその友人たちは、そこで仙人を見たと言う。

 

「ボロボロの服を着ていた」

「カンフーが使えるらしい」

「割り箸と糸で作ったヌンチャクを振り回してた」

「川をお風呂にしてるらしいが、冬は入らないらしい」

「洞窟の中にいる虫とかも食べると言っていた」

「プチマート(地元のスーパー)で貰ってきた段ボールを身体に巻いて寝る」

 

今思えば、聞けば聞くほどちょっと頭がアレなホームレスなのだが、都会には沢山いる彼らに、田舎では出会ったことがなかった。そういう人たちがいるらしい、という知識はあっても、実際目にした奇妙な風体の人間がそれだとは理解できなかったのだろう。

この人は、漫画に出てくるような仙人に違いない!と確信した兄たちは、色々質問責めにした結果仙人を怒らせてしまったらしく、怒鳴られ追いかけられ這々の体で麓まで逃げ帰ってきたらしい。

この話を兄から聞いた自分も、ラピュタのパズーみたいに「仙人は本当にいたんだ!」となんの疑いもなく思った(バカ)。

翌日、早速友達数人にこの話をして、仙人見に行こうぜ!と持ちかけた。そして、周りもバカばかりだったから疑う者は誰一人いなかった。

 

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日曜、「仙人ツアー」と銘打って友人達ときつね神社へ向かった。弁当やらお菓子やら持って、もうなんというかピクニック気分だった。

が、その日は今にも雨が降り出しそうな生憎の曇り空で、ただでさえ薄暗い参道は夜中かってくらい暗かった。参道の脇にずらり並んだきつねも本当マジ不気味過ぎた。仙人じゃなくて幽霊出てきそう、いや自分ら今日はそういうの求めてないんで……みたいにちょっとテンション下がりつつも、神社の裏にそれらしい穴を見つけ出した。 

 

残念ながら仙人はいなかった。たまたま不在だったか、兄達に発見されて寝ぐらを変えたか、そもそも全て兄の口から出まかせだったか。懐中電灯を忘れてきたので、隅々を探索することも出来なかった。

な〜んだ、つって背を向けて帰ろうとしたとき、穴の奥から物音がした!と友人の一人が悲鳴あげたもんだから、みんな一目散に階段を駆け下りた。

 

太って足が遅い自分はビビり過ぎて階段を踏み外し、二度目の脱臼をした。

この時はまだ外れた関節が今のようにはすぐには戻らず、痛みで立ち上がれなかったのて、既に下に降りている友人達に大声で助けを呼び、左右から両脇を抱えられてようやく脱出できた。

とても家まで歩ける状態ではなく、神社から一番近い民家で電話を借りて、母親に迎えにきて貰った。

仙人はいないし(というかそもそもホームレスだし)、自分から誘っておいて転び、母ちゃん迎えに来させて折角のツアーがお開きなんて、情けなさすぎる。メンツ丸つぶれだった。

当たり前だが、母親からは大目玉を食らい、「だって仙人が……」と半泣きで訴えると、「いるわけないだろ!馬鹿が!」と容赦なかった。

 

週明け、足が治ったらまた「仙人ツアー」行こう、と松葉杖つきながら友人らに持ちかけると、みんな優しいから同意してくれたが、2度はなかったことから本心が知れた。さらに、きつね神社の呪いで足を怪我したと噂され、踏んだり蹴ったりだった。

 

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一生続くかと思ったクソデブ生活だったが、高校がうんざりするほど家から遠く、ゾンビから逃げる勢いの本気立ち漕ぎでも40分かかる登下校(チャリ通)を毎日こなすうち、みるみる体重が減っていった。

今も決して痩せてる方ではないが、小学生の頃に比べりゃ大分マシだ。

胸騒ぎ

浪人して大学に入ったのに就職活動に失敗し、看護師になるべく専門学校に入り直した。

こう言うと、就職難の時期だったから…と気を使われることもあったが、失敗した原因は完全に自分にある。

 

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大学受験のときもそうだったが、自分は変なところで楽観的というか、自分の能力を過信して、まぁどっか滑り込めるだろと簡単に考えてしまう。そろそろ本気で始めるか、と思ったときは既に遅く、周りから大きく遅れをとっている。いつもそうだ。根底には、煩わしく面倒なことから出来るだけ逃避したい、嫌なことは後回しにしたい、という思いがある。夏休みの宿題だって、いつも最終日に徹夜でやっていたし、間に合わなかった課題は未提出で知らん顔。クズそのものである。

みんなと一緒に真面目に就活していたからといって、内定が貰えたかと言えばそうではないだろう。こんなクズ、自分だって採用したくない。面接官はよく見ている。

だから、あまり面識がない親戚のおっさんに、

「就職しないでまた学校行くって、それ大学行ったのまるっきり無駄でねぇか」

と言われたとき、その当たり前の発言が逆に嬉しかった。こんなクズに気を使わないでくれてありがとうと思った。

 

専門学校は、自分のように就活に失敗した人や、仕事を辞めて入学してきた人も何人かいたので、疎外感はなかった。自分は若い女性が少し苦手だったのだが、話してみると素直で良い子ばかりだった。仕事とは言え、時には屎尿や血液に塗れ、他人の世話を嫌がらずしようと思えるなんて、しかも高校卒業したての若い子が。悪い子であるはずないじゃないか。

AVのインタビューで、なりたい職業を聞かれて保育士か看護師と言う女優は良い子だ。絶対に。AV女優だって、普通の女性は嫌がることを笑顔でやってくれるじゃないか。時には屎尿や血液に塗れることもあるだろう。根っこは一緒なんだ。

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病院はどこも人手不足なので、希望する病院へ難なく入職できた。

自分は頭も動きも鈍い。急性期の病棟は向いてないと思ったので、入退院の少ない、認知症の老人ばかりを集めた病棟に配属を希望した。人気のない病棟だったので、新卒入職は自分だけだった。

 

認知症という病は、実に奥が深かった。

傍目には全く普通に見えても受け答えが支離滅裂だとか、妄想が激しかったり、他人に対しては穏やかだが家族にだけ激しい暴言・暴力があったりする場合もある。

「こんなところにいたら、自分もおかしくなりそうだ」

と言って、周りの患者とは離れたところでいつも一人クロスワードパズルをしていたA氏は、家に戻るとゴミ捨て場から大量のゴミを拾ってきて溜め込む、所謂ゴミ屋敷の住人だった。

車椅子で自分では指一本動かせないB氏は汚言症があり、女性器の名称を10秒に一回叫んでいた。

元気だった頃は有名な会社の重役だったC氏も、今では

「ち○ちん大きくなって〜、大騒ぎ〜」

しか言わない。

職員は慣れたものだが、家族は相当辛いだろうなと思った。

妄想が激しい患者に叩かれたり噛まれたり、生傷は絶えなかったが、この仕事はまぁ自分に合っていた。日々の業務は多忙を極めたが、急変する患者は少ないし、大体は1日のスケジュール通りに動けばいい。

 

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入職してちょうど1年が経とうとする頃、院内で研修を受けていた際に例の震災があった。

都内でこんなに揺れるのだから、実家の方も只事ではないだろうと震えた。病棟内のテレビで津波の映像を見たときは絶句した。そして、おそらく家族は助からないだろうとも。実家から海まではとても近く、静かな夜は潮騒が聞こえてくるほどだったから。

「ち○ちん大きくなって〜、大騒ぎ〜」

ナースステーションに一番近い部屋で寝たきりのC氏が、大声で叫んでいた。彼は昼夜を問わずその台詞を叫ぶ。大騒ぎと言っているが、騒いでいるのは彼だけだった。それを聞きながら、全く上の空でなんとか業務を終え家に帰り、家族からの連絡を待った。

 

幸い、祖母はデイサービスに、母は職場にいたため助かった。施設の固定電話から連絡が入り、安心はしたが、実家は駄目だったと聞き大きなショックを受けた。

「嘘⁉︎」

嘘ではないことは百も承知だが、思わず言ってしまう。

「そんな……なんとかならないの?」

なんとかなるはずもないが聞いてしまう。

「なんとかって、全部流されたんだよ!何にもないの。すかっと!じゃあ、他の人も電話使いたくて大勢並んでるからもう切るよ。とりあえず無事だからね!」

そう言って、母は電話を切った。激しい喪失感に襲われた。

 

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今は無事だが、また地震が起こって、避難先の施設まで津波が来たら……などと考えているうちに夜が明け、一睡も出来ぬうちにまた職場へ向かうことになった。

自分の出身地を知っている職員から家族の安否を問われ、家族は大丈夫だったんですが実家は駄目で……と言ううちに堪えきれず涙が溢れた。

すみません、と席を外し、ナースステーションの奥で気持ちを落ち付けようとした。

 

「ち○ちん大きくなって〜、大騒ぎ〜」

C氏は今日も元気に叫んでいた。この恐ろしい日本の状況を分からずにいられるのも、ある意味幸せだな、と少し羨ましく感じた。

「ち○ちん大きくなって〜、胸騒ぎ〜」

え、今なんつった?ずっと同じ台詞だったのに、このタイミングで変えてきやがった。

不謹慎かもしれないが、それ聞いてなんか爆笑してしまった。胸騒ぎってなんだよ。ポエティック。

しかし笑いの力と言うのはとても強い。張り詰めていた気も一気に緩んだ。

家が流されたのは辛いが、2〜3日ワンワン泣けば諦めもつくだろう。そう思えた。

 

 

諸事情で翌年に退職することになったが、この日のことはよく思い出す。

辛い記憶も、「胸騒ぎ」と一緒に想起するので、結局は笑ってしまう。

C氏へありがとうと伝えたい。終