わたしは貝になれない

人生の偏差値50

ベリアル様

自分の母親は読書家で、図書館で限度枠いっぱいに借りてきてはすぐに読んでしまう。読むのがめちゃ速いが故に、金が勿体無いからと本好きにも関わらず自分用には滅多に購入しない。が、子供の教育に関しては金を惜しまない面もあり、本であればどんな内容のものでも大抵買ってもらえた。

普通は渋られると思うが、漫画もその例に漏れなかった。母親は漫画は「ベルばら」くらいしか読まなかったらしいので、もしかしたら全ての漫画がベルばらみたいな感じだと思っていたのかもしれない。

デビルマン漂流教室めぞん一刻風の谷のナウシカブッダ王家の紋章、BASARA、幽☆遊☆白書伝染るんです行け!稲中卓球部  などなど  

少し成長してからは鉄コン筋クリート、リバーズエッジ、茄子、アゴなしゲンと俺物語  などなど  

とてもここでは書ききれないが、自室の床が漫画の重みでたわむ程だった。それら全て親の金で購入したし、漫画ばかり読んでいても注意されるでもなく自由にさせてもらったのは本当にありがたい。

  

 

「漫画で読む歴史」みたいな、何巻もある教育漫画も学研かなんかで注文購入していた。うちにあったやつは、宇宙人の男女が「あれがアリストテレスね、10年後に行ってみましょう」とか言って俯瞰で歴史を眺めるみたいな、昔テレビでやってた「まんがはじめて物語」と似たような内容だった。割と面白かった記憶はあるが、内容は殆ど忘れた。

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唯一覚えてるとこは、古代エジプトでミイラ作ったり解剖したりするシーン(おっぱい出てたから)。

あとは、今昔物語を漫画化したやつの中で、イケメン貴族が片思い相手のうんこ盗んだらめっちゃいい匂いして、ちょっと食べてみたらうまい!(芋で作った偽うんこだった)裏かかれた惚れ直したでおじゃる、みたいな話が印象深い。

内容もさることながら、なんか絵柄もババアが読むようなレディコミ風だったからか、ねっとりした変態ぽさが前面に出てた。例えば少年アシベとかコボちゃんみたいなほのぼのした絵柄だったら、また感じ方も違っただろう。

 

 

 

従兄弟の姉ちゃんが、当時まだ連載中の少女漫画「ぼくの地球を守って」にどハマりし、まだ小学生だった自分に登場人物の相関図を暗記させた(なんで?)。この漫画は前世の記憶をもつ高校生達の話で、スピリチュアルブームも相まって大ヒットしたらしい。

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「シオンが小林輪、モクレンが坂口亜梨子、ギョクランが小椋迅八、エンジュが……」

漫画の内容は一切知らないまま、登場人物たちの前世と現世の名前を暗唱してみせると、従姉妹の姉ちゃんがめちゃ喜んでくれたので、自分も嬉しかった。

 

ちゃんと全巻読んだのは自分がもう少し大きくなってからで、既に連載も終わって文庫本も出版された頃だった。本当によく出来たストーリーで、息もつかせぬ展開の中に笑える場面もありつつ、最後は大団円で終わる。感動した。

しかし、ある巻に「この物語は完全にフィクションです。誤解させてすみません」的な作者コメントが載っていたのが気になった。そんなん当たり前だろ、誰が本気にすんの?って思ってたら、洒落にならんくらいの人が本気にしてて、一大前世ブームが起こったらしい。中には登場人物を自分だと思い込み、オカルト雑誌に「前世の仲間を探しています。当方モクレンです」等と投稿する人も少なからずいて、作者があのようなコメントを出す事態になったと(wikiより)。

まぁどっぷりのめり込んじゃうくらい面白い漫画だったと。

 

 

時を経て。

大学のレポート作成をしているときに、稲中卓球部で井沢の前世が関ヶ原にいたバッタですって話面白かったなとふと思い出し、気紛れに「前世」と検索バーに入力してみた。

すると、「前世の仲間を探す掲示板」というのが引っかかった。ちょっと覗いてみると、天使の記憶・悪魔の記憶・動物の記憶・妖精の記憶、みたいに細かく掲示板が分かれていた。時間をかけて一つずつ見ていくと、悪魔の記憶と竜の記憶が盛り上がっていた。

 

特に自分が気に入ったのは、悪魔の掲示板にいたAさん。

彼女の夫は悪魔ベリアルで、魔界の王。前世っていうか、こちらの世界と魔界を行き来していて、寝ると魔界に行けるらしい。魔界でのAさんは髪が青くなって腰まで伸び、いつも黒いドレスを着ているんだって。Aさん、「前世で、私の恋人は魔王でした云々」みたいな他の人の書き込みに「それは偽りの記憶だと思います。魔界の王は私の夫ベリアル様だけだから」と断言してて強かった。

あと、竜の記憶を持つ人達も良かった。

竜の掲示板には、前世で竜族のお姫様だったBさん(美少女らしい)と、それをとりまく側近みたいな人達が常駐していた。Bさんは前世で非業の死を遂げたらしく「今日は風がとても優しい……。悲しい記憶も蘇ってくるけど、私はみんなが思ってる程可哀想な女の子じゃないよ?」みたいな、思わせ振りな書き込みに身悶えした。竜族は風と友達で、天気も軽く操れるらしい。詳しくストーリー教えて欲しかったが、自分には竜の記憶はなかったので仲間に入れない。「ナージュ(Bさんの前世ネーム)可愛かった〜、前世のイメージぴったりでした!」とか取り巻きに言われてたので、定期的にオフ会開いてるのが分かった。

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生前の愛用品を子供に選ばせて次期ダライ・ラマを決めるみたいなそんな次元の話じゃなくて、もうファンタジー全開だった。

100%笑いの方向で見ていたが、掲示板に「妄想だろ」とか「漫画読みすぎ」とか書き込む気は全くなかった。そういう行為は管理人からきつく禁止されていたし、そもそも妄想でも嘘でも誰にも迷惑かけてないし、本人たちが楽しんでやってんだから大いに結構。水を差すなんてとんでもない。

学校帰りに珍しい虫の巣を見つけた感覚で、それからちょくちょく掲示板を覗いていたのだが、就活やら専門学校の入試やらでバタバタするうち存在を忘れてしまい、あ、そういやあの虫の巣どうなったかな、と思い出したときには、既になくなっていた。

どうやら某巨大掲示板で話題になり、痛いやつら見〜つけたとばかりに煽られ、閉鎖に追い込まれてしまったらしい。ひどすぎる。自分だけが知っていた特別な虫の巣が、クラスの悪ガキどもに見つかり、なんだこの虫気持ち悪っ!と弄ばれた上に無残にも蹴散らされてしまったのだった。

 

 

あの掲示板の利用者たち、今頃は結構な年になってると思うが、一体どうしてるだろうか。

電車で隣に座った人がベリアル様の妻だったりするかもしれない。

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