わたしは貝になれない

人生の偏差値50

そのTシャツはユニクロですらなく

10代の頃は人並みに宝島社あたりから出てる雑誌読んで、1時間強鈍行列車に揺られて仙台フォーラスまで行った挙句に奇抜すぎる原色レインボーカラーのパーカー買ったりした時期もあった。

地元はハラジュクでもシモキタでもない肥臭い田舎で、タワレコも古着屋もヴィレッジヴァンガードもスタバもない。もっと言えば牛丼屋すらない吉幾三の世界で生きている。

そんじゃその服どこに着てくのってなったら、仕方ないから家の前の農道をブラブラするしかなく、畑でゴミ燃(も)してる近所の婆さんに指差されるのである。

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今は本当に服装なんてどうでも良いと思っている。

「あんたその汚いダウンジャケット、高校の時から着てるんじゃないの」

と母親からゴミ虫見るような目で言われたり、コレあんたに買って来たからと渡された変な猫みたいな名もないようなキャラ描かれてるTシャツを有り難く装備し、平気で駅前のドコモショップまで行って機種変更したりしている。

そのドコモショップ、「対応に満足いただけたらスタッフに渡してください」と小さい造花のチューリップがカウンターに置いてあったので、懇切丁寧にiPhone5sの説明してくれたお姉さんに「親切にありがとうございました。コレどうぞ」つってプロポーズの作法で両手でチューリップ持って渡した。

変な猫描いてあるTシャツ着てる奴よりはタキシード着てる奴に花渡された方がお姉さんも嬉しいだろうが、タキシード着て機種変しに行く奴もいないだろうし、ともあれ襤褸は着てても心は錦の精神でやっている。

 

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ドラマでも、武田鉄矢がヨレヨレの作業着で101回目のプロポーズした後、工事現場に落ちてたナットを指輪に見立てて浅野温子に渡していた。

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「僕には、何もありませんよ。貯金もありませんし、会社も辞めて、今はもうみっともない中年のしょぼくれオヤジです。(司法)試験にも落ちて、あなたの言う通り変われなかった駄目な男なんですよ。それでも…。」

「…私を、もらってください。」

VOWに載ってて死ぬ程笑ったのだが、武田鉄矢が司法試験目指してんのに司法書士試験の参考書を3日寝てないみたいな血走った眼で読んでたので(そら落ちるわな)、「僕には何もありません」という台詞も俄然真実味帯びてた。弟役の江口洋介も兄ちゃん頑張って!の顔してるとこ見ると、兄弟揃ってポンコツかよどうしようもねえなといった感じがあった。VOW - Wikipedia

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それでも良いって浅野温子は言うんだから、外見なんて構わないポンコツでもなんぼのもんじゃい、大事なのは心(ハート)なのよ。

 

 

101回目のプロポーズ武田鉄矢じゃないが、自分も大学時代は法学部に属していた。

ある日、友人に誘われるがまま、法学会が主催する府中刑務所見学会に参加希望の申し込みをした。

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事前に、受刑者を刺激するような髪型服装は厳に慎むようにとの通告がなされた。要するに個性殺した就活生みたいな格好して来いということで、自分もリクルートスーツ着て黒縁眼鏡(非おしゃれ)かけて行くことにした。

前日の夜、鏡で自分の姿見てみるとこんな格好もなかなか悪くねーじゃんという気がした。

 

当日。

普段はスニーカーとサンダルくらいしか履かないので、行きの電車乗ってるあたりからヤバい気がしてたが、刑務所内に一歩足を踏み入れた時にはもう靴擦れが限界まで来ていた。皮ベロッベロに剥けてた。どうか土足厳禁であってくれと一縷の望みを託していたが、スリッパに履き替えることもなく、見学が始まってしまった。

 

職員の後に学生がゾロゾロついて、雑居房、懲罰房、単独室、作業所と逐一説明受けつつ見て行くのだが、職業病なのかなんなのか知らんけど職員の足が速過ぎるんだよ。特に作業所は実際に受刑者が作業してるから顔を見ないように決して立ち止まらないようにってことで、競歩ばりの速さで進むもんだから自分だけどんどん置いてかれてしまった。

府中刑務所ってB指標受刑者(刑務所に入るのが2回目以上の者や暴力団関係者)と外国人受刑者ばかり集めた刑務所だってことを事前に聞いていたのだが、そんな人らが沢山いる場所に1人取り残されそうになったもんだから滅茶苦茶ビビってしまい、ええいままよ!と靴を脱ぎ、「北の国から」で電車追いかけてる時の蛍みたいに必死に走った。

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やっと追いついて肩で息してると

「ちょっとちょっと、裸足ダメ!何やってんの!」

と滅茶苦茶怒られてしまった。すいません靴擦れが酷くて…と訴えると、なんだそれなら早く言ってもらわないと、と言って、どっかから上履きを持ってきてくれた。

「コレ履いて。」

と渡された便所用みたいなサンダルには、「出廷用」と黒マジックで大きく書いてあった。

 

痛みから解放されると心も凪いで、そこからは穏やかな気持ちで見て回ることが出来た。

その日は丁度運動会の日だったので、外の運動場では工場対決の綱引きが催されていた。

外国人受刑者の1人が前で綱引いてた受刑者に若干キレてて(ジェスチャー見る限り多分足踏んだかなんだかで)、それ見てたら声には出さないがすげー笑えた。怒ったとこでそれ味方のチームだから。

そんな自分もビシッとスーツ着て神妙な顔してんのに足元は出廷用サンダルだし、人のこと笑ってられないのだが。

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見学後。

府中刑務所の近くにあった刑務所作業製品展示場で渋いブックカバーを購入し、ほくほくしながら帰路に着いたのだが、忘れていた靴擦れがまた酷いことになってきたので、靴脱いで歩道の縁石に腰掛け、一旦休憩することにした。

ついでに行きにコンビニで買って鞄に入れっぱなしにしてたおにぎりを食べてたら、なんか惨めな気持ちになってきてしまった。

慣れない格好するもんじゃないな…でもそろそろ就活本腰入れないとな…働き始めたらずっとスーツ着なきゃならんのか…格好良いブックカバー買ったは良いが本読む時間あるかね…

そこからは覚えてないが、タクシー使う金なんて無いしどうにかこうにか休み休み帰ったんだろうと思う。

 

 

要らん心配しなくても、お前は就活に失敗して卒業した後に3年間専門学校に通うことになるし、スーツとは一生無縁の職業に就くことになる。ビシッとした格好なんてすることは全然なく、母ちゃんが買ってきた変な猫みたいな名もないようなキャラ描かれたTシャツ着て、平気で街を歩くような社会人になるのだから。そのブックカバーも現役で使用しているぜ。終

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良くね?