わたしは貝になれない

人生の偏差値50

仙人ツアー

両膝に爆弾を抱えている。いや、爆弾と言うと少し物騒すぎるので、ここは不発弾と呼びたい。

先天的に両膝の半月板が一部欠けているため、簡単に脱臼してしまうのだ。 

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初めて脱臼したのは小学5年で体育の授業中、バスケをしているときだった。遠くからパスを受け、後方にバランスを崩した。両足が「バキバキっ」と音を立てて、冗談抜きで複雑骨折したかと思った。

整形外科で膝関節に溜まった血を抜いて、完治まで大体1ヶ月くらいだったか。

同様の怪我を繰り返すうち、膝関節がガックガクになっていき、今では少し膝を指で外側に押すだけで脱臼するし、すぐに元に戻るわけの分からん身体になった。もし自分の足がドアだったら、鍵(膝)が馬鹿になっててたまに勝手にドア開いちゃうから、大家に言って鍵交換してもらわなきゃな、となる。そして今の自分の状態は、まぁ泥棒なんて滅多に入らないだろうから、ちょっと気をつけて生活してりゃいいか、と諦めてる状態である。

 

全速力で走ったり、ジャンプしたりすると必ず膝がずれるし、普通に歩いているだけでも転びやすい。が、そんな身体の不具合にももう慣れた。不便さのランクで言ったら花粉症くらいなもので、大変っちゃ大変だが別に悲観するほどでもない。

「スポーツやってる人はハンデになるから手術したりするんだけどね。でも結構な手術になるし、リハビリも時間がかかるよ。君の場合、取り敢えず体重を落として膝に負担をかけないように。あと足の筋肉を鍛えてね。水泳とかおすすめ」

何度目かの脱臼の時、整形外科医に言われた言葉である。

自分は小学生当時、滅茶苦茶太っていた。毎日家から5分の駄菓子屋に通い、両手に抱えるほど菓子を買い込んで貪り食っていたからだ。加えて運動嫌いに野菜嫌い。痩せる要素など微塵もなかった。

ちなみに、医者から言われる前から既にスイミングスクールに通わされていたが、スクールに設置してあった17アイスを帰りに絶対食ってたので全然意味なかった。

 

 

 

数ある脱臼エピソードの中でも、一番思い出深いのは2回目の脱臼である。

やはり小学5年生の頃。兄が

「きつね神社で仙人を見た」

と言う。

きつね神社は町の外れの小高い山の上にある神社で、正式名称は手長神社と言う。地元には手長足長の伝説があるが、それと関係してるかどうかは分からない。補足すると、手長足長は足がめちゃ長い妖怪が手のめちゃ長い妖怪を肩車してる戸愚呂兄弟みたいなやつらで、悪さして村人たちを苦しめていたのを、徳の高いお坊さんが山に封印したとか何とか。

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なんで手長神社が地元のクソガキ達からきつね神社と呼ばれてるかと言うと、麓から頂上の社殿まで京都の伏見稲荷みたいに鳥居がずらっと続いているのだが、その脇に大小様々なきつねの像(お稲荷様)が無数に置いてあるからだ。

このきつね神社、陽当たり最悪で昼間でも薄暗く、はっきり言って滅茶苦茶気味悪い。伏見稲荷を例に出したが、あんな風に綺麗に整備されておらず、今は知らんが当時は朽ち果てる寸前といった体。

その神社の裏手に洞窟というか防空壕みたいな横穴があって、兄とその友人たちは、そこで仙人を見たと言う。

 

「ボロボロの服を着ていた」

「カンフーが使えるらしい」

「割り箸と糸で作ったヌンチャクを振り回してた」

「川をお風呂にしてるらしいが、冬は入らないらしい」

「洞窟の中にいる虫とかも食べると言っていた」

「プチマート(地元のスーパー)で貰ってきた段ボールを身体に巻いて寝る」

 

今思えば、聞けば聞くほどちょっと頭がアレなホームレスなのだが、都会には沢山いる彼らに、田舎では出会ったことがなかった。そういう人たちがいるらしい、という知識はあっても、実際目にした奇妙な風体の人間がそれだとは理解できなかったのだろう。

この人は、漫画に出てくるような仙人に違いない!と確信した兄たちは、色々質問責めにした結果仙人を怒らせてしまったらしく、怒鳴られ追いかけられ這々の体で麓まで逃げ帰ってきたらしい。

この話を兄から聞いた自分も、ラピュタのパズーみたいに「仙人は本当にいたんだ!」となんの疑いもなく思った(バカ)。

翌日、早速友達数人にこの話をして、仙人見に行こうぜ!と持ちかけた。そして、周りもバカばかりだったから疑う者は誰一人いなかった。

 

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日曜、「仙人ツアー」と銘打って友人達ときつね神社へ向かった。弁当やらお菓子やら持って、もうなんというかピクニック気分だった。

が、その日は今にも雨が降り出しそうな生憎の曇り空で、ただでさえ薄暗い参道は夜中かってくらい暗かった。参道の脇にずらり並んだきつねも本当マジ不気味過ぎた。仙人じゃなくて幽霊出てきそう、いや自分ら今日はそういうの求めてないんで……みたいにちょっとテンション下がりつつも、神社の裏にそれらしい穴を見つけ出した。 

 

残念ながら仙人はいなかった。たまたま不在だったか、兄達に発見されて寝ぐらを変えたか、そもそも全て兄の口から出まかせだったか。懐中電灯を忘れてきたので、隅々を探索することも出来なかった。

な〜んだ、つって背を向けて帰ろうとしたとき、穴の奥から物音がした!と友人の一人が悲鳴あげたもんだから、みんな一目散に階段を駆け下りた。

 

太って足が遅い自分はビビり過ぎて階段を踏み外し、二度目の脱臼をした。

この時はまだ外れた関節が今のようにはすぐには戻らず、痛みで立ち上がれなかったのて、既に下に降りている友人達に大声で助けを呼び、左右から両脇を抱えられてようやく脱出できた。

とても家まで歩ける状態ではなく、神社から一番近い民家で電話を借りて、母親に迎えにきて貰った。

仙人はいないし(というかそもそもホームレスだし)、自分から誘っておいて転び、母ちゃん迎えに来させて折角のツアーがお開きなんて、情けなさすぎる。メンツ丸つぶれだった。

当たり前だが、母親からは大目玉を食らい、「だって仙人が……」と半泣きで訴えると、「いるわけないだろ!馬鹿が!」と容赦なかった。

 

週明け、足が治ったらまた「仙人ツアー」行こう、と松葉杖つきながら友人らに持ちかけると、みんな優しいから同意してくれたが、2度はなかったことから本心が知れた。さらに、きつね神社の呪いで足を怪我したと噂され、踏んだり蹴ったりだった。

 

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一生続くかと思ったクソデブ生活だったが、高校がうんざりするほど家から遠く、ゾンビから逃げる勢いの本気立ち漕ぎでも40分かかる登下校(チャリ通)を毎日こなすうち、みるみる体重が減っていった。

今も決して痩せてる方ではないが、小学生の頃に比べりゃ大分マシだ。